縁起によると、天平14年(742)熊野くまの三所さんしょ権現ごんげん鎮ちん護ごのために東大寺末寺として現在地よりも約1キロ北西に建立こんりゅうされ、延暦11年(792)大師の巡錫を仰ぎ、弘仁十三年(822)嵯峨さが聖帝の勅により再興されたと伝えられている。しかしながら、戦国時代末、長宗ちょうそ我部元かべもと親ちかの兵火により一部を残してその殆ほとんどを焼失、慶長年間(1596～1615)に再建されたものの再び焼亡、本堂は寛保元年(1741)に建立されたものとされている。

　現在の大興寺は真言宗善通寺派の寺院であるが、往時おうじ真言二十四坊天台十二坊が甍いらかを連ね、同じ境内で真言天台二宗が兼学けんがくしたという珍しい来歴を持っている。そのためか天台宗の影響が大きく、本堂に向かって左側の弘法大師堂と共に、右側に天台宗第三祖智顗ちぎを祀る天台大師堂があるという配置にその名残を留めている。また本尊脇侍わきじは不動明王と毘沙門天であり、その配置は天台様式である。

　本堂正面の参道の入り口にある仁王門に立つ四国霊場最大の金剛力士像は像高314センチの県指定文化財で鎌倉初期運慶の作と伝えられている。94段の参道右側には弘法大師お手植えとされる榧かやと楠くすの大木があり、中段の平地の左右にはかつてお堂が建っていた。また、本堂南側には熊野三所権現が祀られ、明治の神仏分離までは当山住職が別当を兼ねていた。同じ敷地に荒神と地神二つの祠もあり、その幟のぼりには卍まんじ紋が今も使われている。往時の境内の姿は、南の熊野三所権現社から弘法大師堂、本堂、天台大師堂から庫裡へとなだらかに連なっており、見事な景観だったと思われる。

　なお、当山の正式名称は小松尾山不動光院大興寺泉上坊せんじょうぼうであるが、御詠歌で｢植ゑおきし小松尾寺こまつおでらを眺むれば｣と詠まれているように、地元では昭和の末までもっぱら小松尾寺こまつおじと呼ばれていた。近傍きんぼうには閼伽谷あかんたに、東蓮坊とうれんぼう、蓮花れんごう、寺岡てらおかなどという寺院に由来する地名が残されており、背後のなだらかな山は、菩提山ぼだいやまと呼ばれている。

　香川県の指定文化財としては先にあげた雄渾ゆうこんな金剛力士像の他に次の三件がある。一つは檜ひのき寄木よせぎ造り、漆うるし箔はく、平安後期作の像高84センチの本尊藥師如來坐像で、弘法大師一刀三礼の尊像とされ、60年に一度御開帳の秘佛である。 二番目は鎌倉時代後期建治2年(1276)の銘がある弘法大師坐像と天台大師坐像であり、対で「県指定文化財」となっている。弘法大師坐像は、銘が残るものの中では現在四国最古とされ、像高74㎝で、木造玉眼彩色で、天台大師坐像は像高77.4㎝、檜の寄木造り、彫眼彩色で、大変珍しい彫像とされる。三番目に｢大興寺｣と記された扁額へんがくがあり、文永4年(1267)の年号と｢従三位じゅざんみ藤原朝臣ふじわらのあそん経朝つねとも｣の裏書きがなされている。また鐘楼しょうろうにある梵鐘ぼんしょうは当山の約1.5キロ北東方向にある、山本町辻地区の氏神様である菅生すがお神社で使われていたもので、神仏混淆こんこうの名残を示すとともに、大東亜戦争最中の金属供出を免れた貴重なものである。また、書道青蓮院しょうれんいん流の祖として名高い尊円法親王そんえんほっしんのうが山本郷ごうを寄進された康永3年(1344)の寄進状が保管されている。

　このように長い歴史を持つ当山は遠く燧灘ひうちなだを望む丘の上に静かにたたずんでいるが、お大師様のご加護をいただいて末永く、皆様と共にありたいと願っている。